〜監修者の部屋〜
お悩み相談
しほさんからのお悩みメール
先生、こんにちは。
ちょっと重い話で申し訳ないのですが…母のことで相談させていただけますでしょうか。

というのも昨年、祖母が亡くなり、今その遺産を巡って伯父・伯母・母たちが争っています。
数年前、祖母が認知症を患った際には、「きょうだい3人で協力して面倒をみよう」と約束していました。
でも実際は、末娘の母に任せっきり。最終的に祖母が施設に入ることになってからは、伯父は見舞いにこそ顔を出していたものの、伯母は見舞ったことさえありませんでした。
にも関わらず、遺産相続の話し合いになったとき、伯母は「介護で誰が苦労したとかは水に流し、遺産は三等分すべき」と主張し、伯父に至っては「自分が家元だ」と言って、ほぼすべてひとり占めしようとしています…。

母としては、永代供養を希望していて、祖母の遺産はすべてそちらのお寺に寄付したいという考えで、自分の取り分がなくても構わないようですが、生前、伯父夫婦が祖母にひどい扱いをしていたことなどもあり、伯父が遺産を一人占めすることだけは我慢ができないようです。

おそらく、前に先生がダイアリーで書かれていたように、伯父も伯母も感性が狂い、何を言っても通じない状態になっているのでしょうね。
私としては、もう法的機関に頼るしかないんだろう…と思いますが、このままではあまりにも母が報われずにかわいそうだと思ってしまいます。
この先、母が救われる道はありますでしょうか?
何か母の心を救ってあげられるアドバイスをご教授いただけないでしょうか。
よろしくお願いいたします。


ジューン先生からのお返事
しほさん、はじめまして。メールをありがとうございます。

本当に、なんとも心の痛むお話しですね。

遺産相続をめぐる醜劇は世間でいろいろ耳にしますから、しほさんの御親戚が特別ではないと思いますが、「聞く」のと「体験する」のと、これほどに違うものもないかもしれません。

「まさか、どうして家がこんなことに……」というショックが、お母様にも、しほさんにもあるでしょうし、そんななか、お母様を想うしほさんの優しさがコントラストの強い写真みたいに輝いてみえてなりません。

「何か母の心を救ってあげられるアドバイスを」という、しほさんのご要望に対してね、私に何か言えることがあるだろうか……と、このメール読んだ瞬間は、自信なく思ってしまったのですが、その直後、まったく不思議なことが起こりました。

しほさんへのお返事を思案しつつ、違う仕事に手をつけようとして参考にしたい文献を眺めていたら、まったく思いがけず、そこに「これこそ、しほさんのお母様にお伝えすべき言葉ではないか!?」と感じる部分を見つけたんです。

長くなりますが、そこで拾った文章をここに引用させていただきます。

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生きることは苦しく、凄惨で、陰鬱な感情で覆われてはいる。けれども、その中で穏やかに微笑み、おおらかに笑い、皆で悦びを分かち合うからこそ、生きることには価値がある。

生きていくことの苦しさの最中に、燦然として輝く悦びがあり、その悦びに微笑み、その悦びに希望を託して微笑み、その悦びを相手と分かち合おうと微笑み合うのである。

そして、人間はその本性として、寛大で気前がよく、道理をわきまえているから、相手に愛情を注ぎ、思慮ある振る舞いができるのではない。

誰もが愚かで、弱く、浅ましく、度し難いほどに卑しい気持ちに翻弄されるがゆえにこそ、愛情と思慮にあふれた振る舞いが燦然と輝く。

『極北と森林の記憶―イヌイットと北西海岸インディアンの版画』昭和堂
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……長い引用になってしまいましたが、私としては、この全文を、しほさんのお母様にぜひ、読んでいただきたくて。

これは、北極近くに住む人々が描いた版画の画集のなかのコラムのひとつとして、人類学の研究者である大村敬一氏がイヌイットのアートについて書いていらっしゃる文章の中の一文です。

北の果ての厳しい自然のなか、身を寄せ合い生きる人々のおおらかさ、分かち合いの精神がいかにして生まれているか、といったことを書いたコラムなのですが、私には、この部分がね、親族の方たちの身勝手さと、お母様としほさんの誠実な優しさとの対比そのものに思えたのです。

また、これを読んで昔、自分が人間関係について深く悩み、だんだん心がすさんでいった時期に、自分なりに出した答えのことも思い出しました。
「相手がどんなにひどいことをしてこようと、それにつられて自分もひどい人になっていいわけがないんだ」と、そんなことを思ったことがあるのです。

その結果、なぜか心がラクになり、「こんなのは許せないし、なんとしても阻止したい。やり返したい。」というネガティブな感情を少しずつですが、小さくしていくことが出来たように思います。

お母様は立派な方です。感性が狂ってしまっているご兄弟の方に引きずられてしまうようなことは決してないと思いますし、しほさんの思いやりによって、きっと救われてくださると思います。

とはいえ、傍らに立つしほさんも心苦しい日々でしょう。本当に大変ですね。

お母様の心情もよく分かります。故人にひどい扱いをしてきた伯父上が遺産を独占するなど、亡くなられた母君への冒涜のようで、とても受け入れないのは当然だと思います。

でも、お母様もしほさんも、親族のみなさんが狂気から抜け出てくれる日が来ると信じ、“その中で穏やかに微笑み、おおらかに笑い"、“誰もが愚かで、弱く、浅ましく、度し難いほどに卑しい気持ちに翻弄されるがゆえにこそ、愛情と思慮にあふれた振る舞いが燦然と輝く"という言葉の実証になるような人生を歩んでいってくだされば……と、勝手ながらも心から願っております。

お母様の献身がどれほど素晴らしいものであったか、「私はよく分かっているよ。私がそういう誠意の心を引き継いでいくよ」とね、しほさんが言ってさし上げることで、少しでもお母様の心が救われますように……。

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